親が「無精」になるべからず
こんにちは、障害を能力に変える環境づくりプロデューサーの齊藤直です。
10月27日、自閉症で切り絵作家の渡邊義紘さんに会いに、熊本のご自宅まで伺ってきました。
渡邊義紘さんとは、元々知り合い・・・だったわけではなく、僕が、インターネットニュースで、義紘さんの切り絵を見て、一目惚れをし、「どうにか義紘さんに会いたい!」という思が込み上げ、
・連絡先を何とか入手
・無理なお願いを聞き入れていただき
今回、お会いさせていただくことができました。
お会いする際し、インターネットで仕入れた義紘さん情報は、全て読み漁って伺ったのですが・・・
実際にお会いして、インタビューをさせていただくことで、初めて知ることができる情報も沢山あり、とても勉強になりました。
はじめに
今回の義紘さんの取材は、お母様の仁子さんが、全面的にご協力を下さったことで、実現しました。
往路は空港までお迎えに来ていただき、また、復路はお忙しい時間を縫って、お見送り下さるなど、何から何まで大変お世話になりました。
はじめに、義紘さんのお母様仁子さんに、心からお礼を申し上げます。
それでは、以下に、インタビュー内容をお届けします。
読みやすさを重視し、対話形式ではなく、Q&A形式にてお届けしますね。
まず、義紘さんの障害と特徴についてお聞かせ下さい。
ご覧いただいた通りなのですが、簡単な受け答えでしたら、会話ができます。
また、今はあんな風に、常にギャーギャー言っていますが、20歳までは、非常におとなしい子でした。(インタビュー時、義紘さんは、僕が義紘さんのご自宅にいることもあって、また、お腹も空いていて、落ち着かない様子でした。)
何がきっかけで、ああなったのかは定かでは無いのですが、20歳を境に、「人が変わった」といえるほど、大きな変化がありました。
また、知能指数(IQ)は、38くらいです。
ですが、観察力・記憶力は非常に高いんです。
以前、「これ、ハリーポッターのドラゴン」と、その日、映画館で見たハリーポッターに一瞬だけ出てきたドラゴンを、帰宅後、切り絵にして私にくれました。
しかし、私は完全に疑っていたので(笑)、ハリーポッターのパンフレットをみて確認をしてみました。
そうしたら、驚くことに、義紘がつくった切り絵は、本当に、ハリーポッターの映画に出てきたドラゴンでした。
また、義紘は、人がとても好きですよ。
今日も、自分のホワイトボードに「さいとうさんがくるひ。」と書いていましたからね。
日頃は、どんな1日をお過ごしですか?
日頃は、通所施設に通っています。
今通っている通所施設は、陶芸やステンドグラスづくりをさせてくれるので、ちょっと遠い(片道2時間)のですが、ここを選びました。
ちなみに、往復共、一人で通っています。
小さい頃、義紘さんはどんなお子さんでしたか?
とにかく偏食が激しかったです。
一度風邪で嘔吐をしてからは、食事が全く食べられなくなってしまったことがありました。
また、発語はとても遅く、10歳からでした。
義紘が生まれ、障害があるとわかってからは、「とにかく経験!」と、私が、毎日の様にあちこち連れて回りました。
いま行っている造形も、小学5年生の時に、近所の動物園で開催されていた親子ねんど大会に参加してみたことが、きっかけです。
初参加で「手捻りねんど」に挑戦したのですが、なんと入賞してしまったんです。
それからは、暫くの間「手捻りねんど」を一生懸命やっていました。
義紘は、粘土作品を作ると、毎時学校に持って行って、校長先生にプレゼントしていました。
当時の校長先生はとてもいい方で、義紘が持参した作品を、全て校長室に飾ってくださいました。
しかし、次々に作品を持っていくものですから、しまいに校長室にも飾れなくなってしまったのです。
すると、校長先生が、「折角だから多くの人に見てもらいましょう。」と、近所の郵便局を借りて、展覧会を開いてくださいました。
これが、義紘の展覧会デビューです。
切り絵の前に、ねんどを行っていたんですね?
はい。それ以外にも、「ガムやアメの包み紙を使って何かを折る」ということは、やっていました。
私が手芸が大好きで、暇さえあれば手芸をしていたので、「自分で何かを作る」ということが、義紘には、当たり前のことだったのかもしれませんね。
切り絵はいつころからはじめられましたか?
切り絵も小学校5年生、6年生の頃からです。
切り絵を始めたきっかけはありますか?
いいえ、特にありません。
ある日、紙を動物や恐竜の形に切り抜いて、私にくれたんです。
はじめは、今のような繊細なものではなく、動物の輪郭を切っただけの「切り抜き絵」だったんですよ。
その後、「義紘、折角だからもう少し細かく切ってみれば?」と声をかけてつくった、初代作品がこれです。
実は、これ、どこも切れていないんですよ。
全部つながっているんです。
私も、これを見た時は「この子、カッターでつくったのかしら?」と思ったのですが、使ったものは、はさみ1本でした。
今日に至るまで、切り絵は、ご両親が意図的に継続させたのですか?
いいえ、違います。
私達夫婦は、義紘に「●●をしなさい。」など、指示をすることはまずありません。(展覧会に、●●と●●を出すからつくってね、などは言います。)
切り絵も折り葉も、全部義紘が自分でつくりだしたものです。
義紘さんの切り絵をはじめとする造形の練習頻度を教えて下さい。
練習をするということはないのですが、ここ1-2年は、毎日何らかの制作をしています。
その作業は、毎日決まった時間にやるのですか?
いいえ、これも義紘のタイミングです。
気が向いたら切って、疲れたらやめる。そんな感じです。
どんなに集中できても、1日2時間位が限度ですね。
2時間もすると、手にはさみのあとがくっきり残るくらいです。
手も、疲れるんだと思います。
作品は、当初から今のような美しさでしたか?または、徐々に上手になってきましたか?
徐々にですね。
ちなみに、切り絵をはじめてから今日までの中には、年単位で切り絵をしなかった時期があります。
通常、こういう「空いた時間」があると、技術って下がりますよね。
美術でも、スポーツでも。
でも義紘はこれが違って、どれだけ間が空いても、前回以上の質で、作品を作ることができるんです。
これは、私の持論なのですが、義紘は、「実際の作業をしていない時間も、脳内では作業をしている」んじゃないかと、思うんですよね。
だから、どれだけ時間が空いても、前回より質の高い作品ができる。
思い過ごしかもしれませんが、そんな気がします。
義紘さんは、なぜ恐竜を作られるのでしょうか。
別に、恐竜にこだわっているのではないんですよ。
一番初めは、動物でした。
今でも動物は、得意ですよ。
でも、多くの方に賞賛いただけるのが恐竜なので、恐竜を多く切るようになりました。
同じ作品を作れる人に出会ったことはありますか?
いえ、障害の有無にかかわらず、同じ作品を作る人に出会ったことは、ありません。
義紘さんに切り絵の師匠はいますか?
いえ、いません。
細かい切り絵も、私が「もっと細かくしてみたら?」と言ったら、できた。
そんな感じです。
障害のある作家仲間はいますか?
日頃から一緒に活動をしているような仲間はいませんが、いつも展示会で会うような人とは、知り合いになりまいます。
スランプはありましたか?
いいえ、スランプのようなものは、一切ありません。
よくテレビで、書けない作家が、「書いては、クチャクチャ、ポイ!」みたいなことしますよね。
義紘には、ああいうことがありません。
作りかけてやめるようなこともほとんど無く、あっても100回に1回あるかどうかです。
作品の品質向上のために、例えば「はさみを使い分けてみる」など、これまで行った取り組みは?
何もありません。
その逆で、以前、東京の展示会に行くとき、飛行場の保安検査で、馴染みのはさみを没収されたんです。
この時は、大失敗をしたなーと、思いました。
そこで、仕方なく、東京についてから文具屋さんで買ったはさみを渡したところ、義紘は、何ら抵抗なく使い、いつもどおり作品を作っていました。
どんなはさみでも、義紘は作品をつくれるみたいです。
作品を発表(販売)しようと思ったきっかけは?
一番最初の発表のきっかけは、先にお話したとおり、校長室に飾れないねんど細工を、近所の郵便局を借りて、展示会を行ったことでした。
その後、人通りの多い郵便局でも展示会をした時、熊本の現代美術館の人が声をかけてくて、現代美術館立ち上げ時にぜひこの作品をと言っていただきました。
それからは、現代美術館に作品を展示する様になりました。
切り絵をはじめとする造形を始めて、義紘さんに変化はありましたか?
自閉症の子って、日によって、調子が全然違うんです。
もうどうしようも無く、手がつけられない日もあるんですよ。
そうした時も、はさみと紙を渡すと、ふっと、いつもの義紘に戻り、作品制作に入れるようになりました。
と言っても、制作が終わると、また調子が悪い状態に戻ります。
まぁ、それでも、制作前と後では、落ち着き方が違います。
将来のゴール(夢)はありますか?
やはり、これで所得を得られる様になることですかね。
生活ができるレベルとは言いませんが、少しでも多くの方に、この義紘の作品を評価していただき、この作品、パフォーマンスを評価していただけたら、とても嬉しいです。
インタビュー後記
今回のインタビューでとても印象的だったのは、お母様の仁子さんの「義紘さんに対する思いの強さと、行動量」です。
仁子さんは、義紘さんが生まれた当初、自動車免許をお持ちでなかったとのこと。
しかし、義紘さんが生まれ、障害があるとわかってからは、「このままでは、この子に何も体験してあげることができない!」と、仁子さんは、自動車免許を取得。
その後は、九州はもちろん、東京でも大阪でも、義紘さんに良さそうな経験ができるところには、どんどん義紘さんを連れ出て、様々な体験をさせたとのことでした。
仁子さんは、
・子どもは経験を通して興味関心のあるものに出会う
と、おっしゃいます。
よく、義紘さんの事例を見て、障害児をもつ若いお母さんが、「どのようにしたら義紘さんのようになりますか?」と、仁子さんに質問をしてくるそうです。
そうした時、仁子さんは、
「子供は、こうしろと言ってそうなるものではありません。」
「子どもは、様々な経験を通して、興味関心のあるものに出会うのです。」
とお話をされるそうです。
・子どもは経験を通して興味関心のあるものに出会う
この2つは、子育てをする僕にも、突き刺さった一言でした。
また仁子さんは、義紘さんの発語・会話を理解するため、日頃は義紘さんのそばに居て、義紘さんが何を見て、どんな経験をしているのかを、しっかりと観察、理解しようと努めていらっしゃることが、凄いなと思いました。
仁子さんは、今も昔もこれをしているので、義紘さんが急に何かを発言しても、いつの何の体験からその発語をしているのかが、わかるとおっしゃいます。
仁子さんのこのお話を聞いて、また、義紘さんの突発的は発言をしっかりキャッチされている様子を目の当たりにして、仁子さんの母親としての大きさに、脱帽しました。
ギャラリー
義紘さんが切り抜いた台紙と制作作品。
義紘さんがつくった作品にバックを入れるのは、母仁子さんの担当。
12年の制作歴がある折り葉。
折り葉は、接着剤を一切使わず、葉っぱだけでつくった動物。
こちらは、超立体的なクモ。
「記念にどうぞ」と、いただいてしまいました!
僕の目の前で、切り絵を見せてくれる、義紘さん。
制作に入るとき、帽子は決まってこの角度。
何の下書きもない紙に、迷いもなく、はさみを入れる義紘さん。
疲れたら・・・当然休憩をします。(笑)
そして、集中力が戻ったら、再び制作。
あと1mm深くはさみを入れたら、切れてしまいそうなのに、全てがつながっているのが、義紘さんの作品の特徴。
切り絵に集中する義紘さんの足者とには、細かい紙の切れ端が沢山。
あっという間に、2015年の干支の「未(ひつじ)」が完成。
カメラを向けると、ナイスポーズで決めてくれた義紘さん。
カメラに映るのは、大好きです。^^
出会いを記念に、2ショット写真を取らせていただきました!
しっかりと、僕のポーズを真似してくれましたよ。
義紘さんは、想像以上にもの凄い技術力があり、また、新聞や映像からは垣間見ることのできなかった、「自閉症ならではの言動」も多々ありました。
今回、義紘さんに会って、義紘さんの作品に触れて、また、今日まで義紘さんを全力でサポートしてきたお母様の仁子さんのお話を聞いて、
「義紘さんのもつポテンシャルを最大限に引き伸ばし、義紘さんの凄さを、世界中の人に紹介、評価してもらいたい!」
と、切に思いました。
微力ではありますが、義紘さんのメジャーデビューを、全力で応援させていただきたいと思います。
「障害」は環境を変えると「能力」になる!
No Adaptive, No Life.
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